ねじ止めしたボス穴から白粉が発生し、樹脂部品が劣化した現象について調査依頼があったのでその原因の解析を行った。

ボス穴の白粉

 

ボス穴から採取した白粉のSEM像 ×150

湿熱試験後にボス穴に生じた白粉生成物のEDX定性分析チャート

 

白粉に含まれる元素としては、マグネシウム合金の成分であるMg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)が主な元素である。

・ 化成処理において、乾燥後に白粉になる物質としてNa(ナトリウム)が知られているが、検出されなかった
・ マグネシウム合金成分の酸化物ないし水酸化物とみられる
・ すなわち、穴の深い部分で化成皮膜が形成されなかった個所ないしは異種金属のねじと生地が接触した個所があり、湿熱環境下で、そこから腐食を生じたと推定される

 

白粉生成物の元素マッピング

 

 

化成処理後に発見されたボス穴内の付着物の分析

 

化成処理後に発見された付着物

 

付着物のSEM像 ×150

 

化成処理皮膜成分の元素

 

化成処理被膜成分の元素

その他の元素

 

化成処理後に発見されたボス穴内の付着物は、

・ 化成処理皮膜成分

・ 化成処理浴に使用されているアルカリ成分(ナトリウム)

から構成されていた。

・ ボス穴内の付着物は、マグネシウム合金が核になっている

と推定される。

 

化成処理後に発見されたボス穴内の付着物の核になった粒子の確認

・ 解析したように、付着物の表面層の成分が化成処理皮膜と水酸化ナトリウム(NaOH)であるため、表面層を水に溶解し、付着物の内層にマグネシウム合金粒子が含まれているかを調べた。
・ 取り出した付着物を容器に入れた純水中に投入し、しばらく放置してから観察したところ、多数の不溶性の微小粒子が観察された。

付着物内に含まれた不溶性の微小粒子 [レーザー顕微鏡で200倍観察]

 

付着物の核になった微小粒子は、金属状で、金属の加工屑とみられる形状で、サイズは数百μm程度であった。

 

微小粒子のEDX元素マッピング [1,000倍で測定]

 

付着物の核になった微小粒子は、 Mg、Alを主成分とし、Mnを含むことから、マグネシウム合金の微小粒子であることが確認された。

 


付着物が発見されたボスの化成処理前の研磨痕
・ 上図のように、ボスの天面が加工されていることから、核となっているマグネシウム合金粒子は、加工屑がボス穴に入ったまま、除去されなかったものと推定される。
・ マグネシウム合金の粒子の上に化成処理被膜が形成されているので、マグネシウム合金の加工屑粒子がボス穴内に付着し、その後に化成処理液と接触し、粒子の上に被膜が形成されたものと考えられる。
・この付着物にNa元素が検出されたことから、化成処理工程内でアルカリ処理液も付着し、アルカリ成分が残留したと判断される。
・ マグネシウム合金の腐食生成物の中で、水酸化物が湿熱環境において水溶液となるとアルカリ性液状物となるので、これが樹脂の劣化を進行させたと考えられる。

 

マグネシウム合金

アルミニウムは両性金属で、酸にも塩基にも溶解する。塩基性の水溶液では、以下の反応によって水が還元されて水素を発生する。

ただし、生成する水酸化アルミニウムの溶解度積 ([Al3+][OH-]3) は1.92 × 10-32であり、ほとんど水に溶解しない。

マグネシウムの腐食反応は、次式で表される。

 

酸性から中性の腐食領域では、活性に腐食する。
強アルカリ溶液中で安定である。

空気中では湿気の存在の下二酸化炭素を吸収して塩基性炭酸マグネシウムを生成する。

水酸化マグネシウムの溶解度積は以下の通りであり、飽和水溶液はpH=10.5程度の弱い塩基性を示す。

水酸化マグネシウムの第二段階塩基解離定数は以下のようになる。他のアルカリ土類金属(Ca,Sr,Ba)の水酸化物より塩基性は弱いが、水酸化鉄(II)、水酸化銅(II)などよりは強塩基である。

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