目的
依頼により、他社で表面処理、塗装を行ったマグネシウム合金ダイカスト成形筐体について、組み立て工程で発生した塗膜剥離剥の原因を調査した。
まとめ
塗装が剥がれた部分の生地には湯じわが存在した。湯じわ部では生地表面が比較的平滑であり、また化成処理皮膜の形成量が減少しており、これらが塗膜の密着性を低下させ、塗膜の剥離が発生したと推察される。
当社では、成形生地の特性に合わせて、化成処理の条件を調整しているが、この筐体においても、適用する塗料の塗膜密着性も考慮して、化成処理条件の調整が必要と判断される。
1.分析サンプル
図1 塗膜剥がれ品
2.分析方法
使用装置 : (株)日立製作所製 X線分析装置付走査型電子顕微鏡(SEM-EDX) Type S-3000H
塗膜剥がれ部品と正常部品の表面の外観観察とX線による元素分析を行った。
3.解析結果
図2に塗装剥がれ部とはがれた塗料片を示した。図3に塗料片のSEM写真を示した。
図4に塗装剥がれ部のSEM写真を示した。図4の右の50倍のSEM写真では、塗料剥がれ部の成形生地に濃く見える模様が観察される。この模様が、成形時にマグネシウム合金溶湯の湯流れで生じた湯じわである。
色の濃い湯じわ部と色の薄い通常部は、組織が異なっている。それを、図4の赤色の四角で囲った部分を500倍に拡大したSEM写真(図)5に示した。通常部は凹凸が目立つのに対し、湯じわ部は比較的平滑である。
すなわち、通常部(ピンクの破線で囲った部分)は、マグネシウム合金の粒界組織が観察されるのに対し、黄色の破線で囲った湯じわ部には粒界組織が観察されない。
図5の粒界組織は、アルミニウム成分の多い粒界が化成処理においてエッチングされ難いのに対し、マグネシウムを主成分とする粒界に囲まれた相(母相、α相)がエッチングされやすいことから、観察されたものである。
湯じわ部は、エッチングされ難い相、すなわちアルミニウム成分が多い相からなることがわかる。
図6に、通常部と湯じわ部の組成をEDX分析した結果を示した。
図6では、化成処理皮膜成分とマグネシウム合金成分が観察される。化成処理皮膜成分は、リン(P)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及び酸素(O)である。
通常部と湯じわ部を比較すると、通常部(緑色)のリン、カルシウム、マンガンのピークが湯じわ部よりも高く、通常部の化成処理皮膜の形成量に比べて、湯じわ部では化成処理皮膜形成量が少ない。図2(左)塗装剥がれ部と塗料片 図3(右) 塗料片のSEM写真(×20倍)
図4に塗装剥がれ部のSEM写真を示した。図4の右の50倍のSEM写真では、塗料剥がれ部の成形生地に濃く見える模様が観察される。この模様が、成形時にマグネシウム合金溶湯の湯流れで生じた湯じわである。
色の濃い湯じわ部と色の薄い通常部は、組織が異なっている。それを、図4の赤色の四角で囲った部分を500倍に拡大したSEM写真(図)5に示した。通常部は凹凸が目立つのに対し、湯じわ部は比較的平滑である。
すなわち、通常部(ピンクの破線で囲った部分)は、マグネシウム合金の粒界組織が観察されるのに対し、黄色の破線で囲った湯じわ部には粒界組織が観察されない。
図5の粒界組織は、アルミニウム成分の多い粒界が化成処理においてエッチングされ難いのに対し、マグネシウムを主成分とする粒界に囲まれた相(母相、α相)がエッチングされやすいことから、観察されたものである。
湯じわ部は、エッチングされ難い相、すなわちアルミニウム成分が多い相からなることがわかる。
図6に、通常部と湯じわ部の組成をEDX分析した結果を示した。
図6では、化成処理皮膜成分とマグネシウム合金成分が観察される。化成処理皮膜成分は、リン(P)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及び酸素(O)である。
通常部と湯じわ部を比較すると、通常部(緑色)のリン、カルシウム、マンガンのピークが湯じわ部よりも高く、通常部の化成処理皮膜の形成量に比べて、湯じわ部では化成処理皮膜形成量が少ない。図2(左)塗装剥がれ部と塗料片 図3(右) 塗料片のSEM写真(×20倍)
図4 塗装剥がれ部のSEM写真
図5 湯じわ部の拡大SEM写真
図6 通常部と湯じわ部のEDX分析比較
(注)金(Au)、パラジウム(Pd)は、分析に当たってサンプルのチャージアップを防ぐ為に行ったコーティング金属である。
4.結論
以上のことから、塗膜剥離を生じたのは、湯じわ部の合金組成に起因して、表面が平滑であること、化成処理皮膜の形成量が少ないことが原因と考えられる。
成形生地の状態と適用する塗料の特性に合わせて、化成処理条件の調整が必要である。