樹脂部品をマグネシウム合金に置き換え,約20%の軽量化を実現
マグネシウムは樹脂よりも軽い?
マグネシウムの軽量性はよく知られていますが、金属のために樹脂材料よりも重くなると思われがちです。しかし、見方を変えるとマグネシウム材料の優れた特性が見えてきます。
異種材料の強度の比較方法は?
同じ部品を異種材料で作った時の強度の比較には、比強度(引張り強度÷比重)が便利です。すなわち、比重は物質の質量/単位体積ですので、比強度は引張り強度を単位体積当たりの質量で割り算したことを意味しています。したがって、比強度は、同じ質量の相似形につくられた物体の強度の比較値になるので、質量が同じ異種材料間の強度を比較できます。
主なフィラー添加樹脂とマグネシウムの比強度は?
部品を射出成形によって成形できる樹脂材料は、樹脂だけで強度が不足する場合には、ガラス繊維などのフィラーを添加して強度を高めます。フィラーを添加すると単位体積当たりの樹脂の質量が大きくなる(重くなる)ので、比重が大きくなります。
下記の表は、熱可塑性樹脂およびそれにガラス繊維を混ぜた材料とマグネシウム合金の比強度を比較したものです。
AZ91ダイカスト材は、6ナイロンと比べて質量を22%削減可能
ダイカスト部品に広く使用されているマグネシウム合金AZ91のダイカスト材の比強度が126.37に対し、比較的比強度の高いガラス繊維30%添加PA6(6ナイロン)の比強度は103.68です。この数値を使うと、それぞれ同じ質量の材料を使用した時には、126.37/103.68=1.22倍の強度をAZ91ダイカスト材が持っていることが分かります。このことを別な方向から見ると、6ナイロンと同じ強度の部品をAZ91ダイカスト材で作る場合には、6ナイロンよりも質量(材料の重さ)を22%削減できることになります。
このように、金属の中で最も比重の小さいマグネシウムをベースにした合金を使用することにより、樹脂材料よりも部品を軽量化できる場合があります。すなわち、軽量化+強度を求める際に一般的に検討される金属と樹脂の複合化に加えて、樹脂からマグネシウムへの置き換えという選択肢も加えることができます。
マグネシウム合金には、さらに比重を小さくした材料も
マグネシウム合金材料には、軽元素のLi(リチウム)を成分として加えることにより、さらに比重を小さくした
・LZ(マグネシウム+リチウム+亜鉛)材(比重1.48)や
・LAZ(マグネシウム+リチウム+アルミニウム+亜鉛)材(比重1.5)
などのように、フィラー添加樹脂と同等の比重を持つ軽量化材料を選ぶことも可能になり、同じ強度の部品を樹脂よりも軽量化できる手段が広がっています。
マグネシウム合金により軽量化を実現した事例
HTC ビジネス向けVRヘッドセットFocus 3
Source : https://vrscout.com/news/htc-vive-focus-3-review/#
この製品ではマグネシウム合金フレームを採用することで従来品と比べ20%軽量化し、落下衝撃耐性もプラスチックと比べて500%強化されています。
原文:That’s due to the new magnesium alloy chassis; the Focus 3 is 20% lighter than HTC’s previous Focus headset. It’s also 500% stronger than traditional plastic, just in case you happen to drop it.
SONY 高性能レンズ FE600mm F4 GM OSS
Source: https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/eco/products/lens_eco.html
出典先のマグネシウム合金に関する記載を抜粋させて頂くと以下のようになります。
「鏡筒にはマグネシウム合金を採用し、製品の総重量を低減しました。」
「また新規の光学設計に加え、軽量なマグネシウム合金の採用などにより軽量化を実現すると同時に、レンズエレメントやバージンプラスチックといった投入資源を削減することで、環境への配慮も行なっています。」
「総重量比約10%以上の軽量化を実現。」
「バージンプラスチックの使用量を、従来の交換レンズと比較して約34%抑制しました。」
環境負荷低減も、樹脂からマグネシウム合金に置き換える大きなメリット
上記のようにSONY製品においてはマグネシウム合金を採用することで軽量化だけでなく、プラスチック削減を通じて環境への配慮も行なわれています。このように環境負荷低減も、樹脂からマグネシウム合金に置き換える大きなメリットの一つとなっています。
マグネシウム材料には他にも優れた特性が軽量性、高い比強度
軽量と強度が求められる製品として上記以外にもドローンなどでの利用も考えることができます。
さらにマグネシウム材料には、軽量性、高い比強度に加えて、
・放熱特性や電磁波シールド性、振動・衝撃吸収性が高い、
・温度による寸法変化が小さい、
・切削性、耐くぼみ性、リサイクル性などに優れている
など、多くの利点があります。
放熱性、電磁波シールド性は医療機器や電子装置に、振動・衝撃吸収性は樹脂やゴムと積層、複合化することで運動靴やスキー板などの運動用具、さらには自動車や航空機などの輸送用機器などに活用するなど新たな用途が生まれる可能性を持っています。
マグネシウム合金を用いた新製品開発の際には、ぜひ当社にお声がけを
ATCでは、マグネシウム合金に防錆性や様々な機能性を付与する化成処理を得意としており、その長年の実績とともに材料メーカーや成形メーカーなどとも密接な連携を図っております。そこで貴社がマグネシウム合金の採用を新たにご検討される際には、当社を窓口として開発を進めて頂くこともできますので、マグネシウム合金を用いた新製品開発の際には、ぜひ当社にお声がけください。