LZ91,LAZ941, LAZ771などのMg-Li合金の表面処理方法について
LZ91,LAZ941, LAZ771などのマグネシウムリチウム(Mg-Li)合金は、「超軽量」かつ「高強度」を兼ね備えた材料であり、例えばLZ91の密度は1.49(g/cm3)と、アルミニウムよりもさらに約45%も軽い金属です。(LZ91はAMLI MATERIALS TECHNOLOGY社のマグネシウムリチウム合金)。しかしながら、これらの材料は非常に腐食しやすいという課題を抱えています。そこで、本記事ではマグネシウムリチウム合金の防錆処理として先行実績のあるマイクロアーク酸化(MAO)の情報をまとめさせて頂きましたので、皆様のご参考になれば幸いです。
マイクロアーク酸化(MAO)とは
マイクロアーク酸化(MAO:Micro-Arc Oxidation)は金属の陽極酸化(アノード酸化)よりも高い電圧下の火花放電を伴うプラズマ電解で、金属の不連続な電気化学的酸化である。プラズマ電解酸化(PEO:Plasma Electrolytic Oxidation)とも呼ばれる。陽極酸化とは生成のメカニズムが異なる部分が多い。
原理は19世紀後半には明らかになっているが、陽極酸化の異常領域での現象のため、制御性などの問題で実用化が遅れたが、2000年台に入り、ようやく軽金属の耐摩耗性、耐食性、耐熱性などを向上させる表面処理技術として注目されるようになった。
マグネシウム素材の軽量化効果が注目され、用途が広がる中で、高い耐食性を期待できるアノード酸化を用いた表面酸化皮膜の高度化技術として、MAOが実用に適用されるようになった。
マグネシウムのアノード酸化では、合金成分だけでなく電解質イオンが酸化皮膜の特性に大きな影響を与えることが際立った特徴であるので、適用には注意を要する。
MAO皮膜の電解挙動
マグネシウムをリン酸ナトリウム溶液中で定電流電解した時の電圧−時間曲線を図1に示す。
図1 マグネシウム材の電圧–時間曲線
電解開始後、バリア層の成長と共に電圧が上昇し、100V程度になると試料全面に発光と小さな白色のスパークが発生し、150V付近ではスパークの数と大きさが増大して電圧は屈曲して電圧の振動が大きくなる。すなわち、スパークの増大と局所化は、バリア層が一定の抵抗を持つまで成長した時に起こる。
MAO皮膜の微細構造
MAO皮膜のSEM像を図2に示す。
図2 マグネシウム合金AZ31材のMAO皮膜の断面SEM像
図aのように、皮膜には大小の球形ボイドが存在し、皮膜の厚さは一定ではなく凹凸がある。皮膜が30μm以上に厚く成長している部分は、強いスパークが発生した場所である。
図bから、MAO皮膜は、皮膜/溶液界面で成長しており、通常のアノード酸化皮膜の成長が皮膜/素地界面で成長するのとは異なる。
MAO皮膜の電解時間と耐食性
図3に、AZ31材をリン酸ナトリウム溶液中で電解した時の電解時間と耐食性の関係を示した。
すなわち、定電流電解した時の電圧−時間曲線と30℃の5%NaCl溶液浸漬した時に腐食が開始された時間を示したものである。
電圧の屈曲後、スパークの局所化が長期化するまでは、皮膜の成長(膜厚の変化)は、電解時間に比例して増加する。
一方、耐食性は、電圧が上昇して振動を開始する直前あたりから著しく向上し、その後、スパークの局在化が継続したのち低下する傾向が見られた。
図3 AZ31材の電圧−電流曲線と皮膜の腐食性
従って、十分な耐食性を付与するには、強いスパークを誘発する程度の膜厚まで皮膜が成長することが必要である。この図のAZ31材の場合には、15〜20分の電解時間を要することになる。
出典: 小野 幸子、阿相 英孝, 表面技術 vol. 69, p.562-570, 2018
MAOの課題
MAOは実績のある処理方法ではあるが、以上の内容から課題として次のことが考えられる。
・MAOは皮膜表面が凹凸になるため、特に外装品においては意匠面での対策を検討する必要がある。
・MAOは化成処理と比較して処理時間が長く、かつ電解処理であるためコスト的に不利と考えられる。
・MAOはマグネシウム合金処理に適した薬液選定、条件設定が難しい。
いずれにせよ、マグネシウムリチウム合金の防錆処理についてはMAO以外の方法も開発されているので品質とコスト両面からの慎重な検討が必要である。
(参考)Mg-Li合金製PC筐体の例
Acer社が、ノートパソコン Swift 5のMg-Li合金筐体をMAOで表面処理したことを公開しているので、以下に、Acer社のサイト
(https://www.acer.com/ac/ja/JP/content/acerdesign-swift-5)から関連する部分を紹介する。
“ミニマルなデザイン
構造上不可欠なライン以外の余分なものをデザインからすべて排除すること
により、洗練されたミニマリストのビジュアルを実現し、Swift 5 a のコンテン
ポラリーな外観が完成しました。”
“信じられないほど軽量で耐久性に優れた素材
アルミと比較すると、同じ厚さで MgAl は 20%軽量、MgLi 35% は軽量です。さらに、同じ厚さで MgAl の強度は 2 倍、MgLi の強度は 4 倍です。これにより、羽根のような軽さのボディデザインでありながら、確かな堅牢さを実現しています。”
“MAO(マイクロアーク酸化)によるソリッドでエレガントなセラミック仕上げ
MAO 技術は、硬度、強度、耐腐食性、酸化耐性を兼ね備えた固体セラミック層を金属の表面に形成します。
*マイクロアーク酸化(MAO)処理 : 部材をアルカリ電解槽に入れ、制御され
た高電圧バイポーラ電流で処理します。電流により、表面でマイクロアーク放電プラズマが発生します。非常な高温により、部材の表面を、独特の手触りを持った極めて硬いセラミック結晶構造に加工します。
Swift 5 の表面仕上げ処理:
1.マグネシウム合金カバーを作製する
2.MAO 技術を適用する
3.表面をセラミックのように加工する
4.外面を塗装する”
以上、Acer社のサイトからの引用。
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