マグネシウム合金の特徴,種類,基礎知識
ATCではマグネシウム合金の化成処理を行っております。このページではマグネシウム合金についての基礎的な情報を掲載させて頂きますので皆様のご参考になれば幸いです。
1. マグネシウム合金の特徴
① 実用金属中、最も軽い材料であり、比重は1.8程度で(アルミニウムの3分の2、銅の4分の1である。)
② 比強度、比剛性が銅やアルミニウムより優れる。
③ 実用金属中最大の振動吸収性(減衰能)を有する。
④ 切削性に優れる。
⑤ 耐くぼみ性が優れる。
⑥ 温度や時間が変化しても寸法変化が少ない。
⑦ ただし、塩素イオンが存在する環境、酸性雰囲気、及び異種金属と接触する場合等に腐食の問題が生じる。価格的にはアルミ合金と比べて材料・製造コストが高くなる。
2. マグネシウム合金の表記
ASTMでの表記が、わかりやすさから最も多く用いられている。
最初の2文字のアルファベットは、各々が主要添加物元素を表し、その順は量の多い順である。
その後の数字はそれらの元素の重量%であり、その後のアルファベットは同じ合金でも含有している不純物量(純度)が異なることから、開発年代順にAから番号が付けられている。
(例)AZ91D : AI 9%、 Zn 1% を含有する4番目に作られた合金
3. マグネシウム合金の種類
合金用の主要添加元素としては、強度と鋳造性を得るための基本元素であるAI、Zn、結晶微細化のためのZr、耐熱性を持たせるための希土類元素がある。
以下に、いくつかの鋳造用と展伸用のマグネシウム合金について簡単に記す。
3−1. 鋳造用合金
1) Mg-AI系合金
マグネシウムの合金の基礎となる合金であるが、一般的に機械的性質に良好であるが、耐食性は良くない。そのため、加熱処理(Super Heating : 850〜900℃に10〜30min保持し、注湯温度まで速く冷却し、鋳造する)を施し、結晶を微細化させ、耐食性を向上させることも行われている。
(1) Mg-AI系合金(AM100Aなど)
α-Mg固容体とβ-Mg13AI12化合物の共晶系で、最大固溶度12.7mass%(437℃)である。
例えば、Mg-10%AI合金であるAM100Aはα単位であるが、非平衡β相が多量に晶出するので、十分に溶体化する必要がある。
このうち、AI含有量の少ないAM50A、AM60Bダイカスト合金は、車(エアーバッグ装着用ステアリング・ホイール芯材等)、バイク用に近年多く使用されるようになってきている。
(2) Mg-AI-Zn系合金(AZ91Dなど)
この合金の中では、AIを9%、Znを1%含むAZ91系は機械的性質や鋳造性などバランスの取れた代表的なマグネシウム合金で、ダイカスト合金として最も多く使用されている。特に、AZ91D合金は、高純度耐食性合金として、自動車、コンピュータ、携帯電話、各種ハウジング類、スポーツ用品など多岐にわたって用いられている。
当社の量産化成処理品の大部分は、このAZ91D合金を用いて成形されたものであり、主にチクソモールディング法及びダイカスト法で作られたものである。
主な製品としては、パソコン筐体、デジカメ筐体、携帯筐体が挙げられる。
また、圧延法で作られたAZ31B合金板の量産も当社で行われており、パソコンの筐体に用いられている。このAZ系においては、AIとZnの含有量によって異なるが、α固溶体とβ-Mg17AI12化合物、及び/又はMg32(AI,Zn)49化合物が共晶として晶出する。
また、粒界反応析出が起こり、粒界において編析が生じやすい。この成分編析が、化成処理の溶液中での反応を不均一にし、良好な皮膜形成を阻害しやすい。
3—2.展伸用合金
マグネシウム合金はアルミニウム合金と異なり、塑性加工性が劣る(常温加工ができず、熱をかけないと加工できない)。展伸材にはおもにMg-AI-Zn系とMg-Zn-Zrが用いられている。
(1) Mg-AI-Zn系合金(AZ31C,AZ61A,AZ80A)
AIを3mass%、Znを1mass%含有するAZ31系は、最も良く用いられている合金であり、固溶硬化と加工硬化で強化して、板、管、棒、形材として用いられている。またこの合金は成形性、溶接性にも優れる。
(2) Mg-Zn-Zr系合金(ZK60A)
Zrを微量添加し、結晶粒を微細化して用いる。また、Zr添加により、熱間加工性が向上する。
この合金は熱処理により耐力が向上し、耐力/比重の比強度が大きい。
4.マグネシウム合金の表面特性
以下の表面特性を有するので、安定な化成処理を行うことが難しいといえる。
1) 化学活性
マグネシウム合金は、実用金属中で電気化学的に最も低い電位を持ち、化学的に極めて活性なため、腐食しやすいという問題を有する。例えば、塩素イオンが存在する環境下では、著しい腐食が発生する。
ただし、湿潤環境に無い大気中では、表面に塩基性炭酸マグネシウム(3MgCO3・Mg(OH)2・3H2O)等からなる平衡pHが10.4の不働皮膜で覆われる為、耐食性は意外と良く、アルミニウムダイカスト合金であるADC12より良いとされる。
2) 不純物の混入
カソード過電圧の低い鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)が混入すると、微量でもマグネシウムとの間に局部電池が形成され、腐食が急激に進行する。
3) 成形時の不均一性
ダイカスト、チクソモールディングにより成形された製品を目視すると一目瞭然であるが、表面は非常に不均一である。湯じわ模様があり、場所により光沢の有無が見られる。合金成分は表面に濃化する傾向に有り、湯じわ部分も合金成分が多い。鉄分の有害不純物も湯じわ部分等に多く存在することが多い。
当社のマグネシウム表面処理(化成処理)に関してはこちらをご覧ください。